Japan, Startup, VC

日本企業のスタートアップ投資あるある➜どうあるべきか

出典:Wikipedia、CVCって大変だよね、的なごく最近の所感をこめて

非常に多くの日本企業が「デジタルトランスフォーメーション」「オープンイノベーション」を近年進めている。私は「デジタル一筋20年」というキャリアなので、全体的には非常に良い方向に進んでいると感じる。

その発展型として「スタートアップとの共創」があり、さらに踏み込んだ「スタートアップ投資」があり、それを体系立って行うのが「CVC」(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)である。

CVCがある程度の「行き着く最後のところ」だとしたときに、じゃあそれがすごく複雑なことかというと、仕組みとしては難しいことはなくて、企業が/一定の金額枠を設けて/スタートアップ投資する というだけであり、ファンド化するか、初回のみならず追加投資をするか、儲けだけ狙うか/戦略的なメリットも狙うか、外部からも資金を入れてLP・GP構造を取るか、というのは手段・戦術、オプションである。

ただ、後述するように日本企業の文化で、そもそもうまくスタートアップ投資〜CVCについて運営するのは非常に難しかろうと考え、日本でトップクラスの法律事務所の、トップクラスの弁護士の方(若いのに本当にスゴイ方。とても尊敬しています)に実際に従事する前にアドバイスをもらいに行ったことがある。(3年前くらいになりますね)

聞いてて非常に面白かったのは、
・この分野、日本企業からの問い合わせ殺到中
・何が目的か、やっている間にどこの会社も分からなくなっちゃうので、ローファームやコンサルにどんどん相談に行ってしまう(ほどに迷走したりする)
ということでした。

で、それから3年経って、周りの日本企業の話も聞いて、以下雑感です。
(特定企業の話ではないことに注意と、個別戦術の話はここではしないですが、また別の機会にでも)


やっぱり、何が目的かということに尽きる。

そして、この活動を通じ、「何が目的か」ということの議論が下手だということを日本企業が痛感する。

  • 目的は、企業によって同じではない。
  • ライフサイクルや景気サイクルによっても変わるはず。
  • たとえば、自社がAppleだったとしましょう。売上高は30兆円以上、業界ダントツナンバーワン、自社の事業領域でマーケットシェア世界1位の分野も多い。
    ➜目的は、数千億円もしくは数兆円レベルの新規事業の創出か。
    ➜この規模になると、自動車、金融、保険、通信など。
    ➜数千億円もしくは数兆円レベルの売上を生む企業の買収か。
    ➜2021年現在、普通のPCメーカーを買う意味は自社には、ない。
    など。
  • この活動を通じ、「何が目的か」ということの議論が下手だということを日本企業が痛感する。
    • 日本企業でよくやる「ボトムアップ」の集約で目的を定めにくい。
    • そもそも「集約して目的を定める」というのは実務的に困難。
    • ローテーションの存在から、1ポジションのマネジメントの在任期間が長くはないので、「今のマネジメントポジションでは波風を立てずに過ごす」というのが無意識的にも個人の目的化してしまう。
    • ローテーションしている場合、その業界・分野に明るくなく、目的を立てるほどの知見がない
      • 逆にGEのJack Welch等は自らの業界知見などから40歳半ばからCEOとしてガンガン目的を元とした施策を打ち出していた
    • だからトップから目的が降りて来ない
    • 結構、DXとかイノベーションとか新規事業開発とかっていうのは会社の中の優秀な人が集められる。頭がいい。
      だから上記みたいなことがすぐに分かって、その上で「目的も決まらないから、うまいことやっているように見せれば、この波も数年で過ぎるだろう」と分析して、それが実行できてしまう。
  • 下記は稲盛和夫氏の「生き方」から。2004年に初版された本だけど、15年以上経って、まだあるある状態なのが、逆に残念。

いままでだれも試みなかった前例のないことに挑戦するときには、周囲の反対や反発は避けられません。それでも、自分の中に「できる」という確固とした思いがあり、それがすでに実現しているイメージが描けるならば、大胆に構想を広げていくべきです。
構想そのものは大胆すぎるくらいの「楽観論」に基づいて、その発想を広げるべきであり、また周囲にも、アイデアの飛躍を後押ししてくれるような楽観論者を集めておくのがいいのです。
そういうとき、難関大学を出た優秀な人ほど反応が冷ややかで、そのアイデアがどれだけ現実離れした無謀なものであるか、ことこまかに説明してくれることが多いのです。
彼らのいうことにも一理あり、その分析も鋭いものなのですが、だからといって出来ない理由ばかりをあげつらっていたのでは、どんないいアイデアも冷水を浴びせたようにしぼんでしまい、できることもできなくなってしまいます。
そういうことが何度かくり返された後、私は相談する相手を一新しました。つまり新しく、むずかしい仕事に取り組むときには、頭はいいが、その鋭い頭脳が悲観的な方向にばかり発揮されるタイプよりも、少しばかりおっちょこちょいなところがあっても、私の提案を「それはおもしろい、ぜひやりましょう」と無邪気に喜び、賛同してくれるタイプの人間を集めて話をするようにしたのです。

  • 目的を議論する、というのは青臭いし、「週末どこに行く、夕飯何食べる」くらいの話でも夫婦ケンカすることが多いように、感情的な話にもなりやすい。価値観がぶつかるので。
    • だけど、終身雇用的な日本企業において、感情的な話をぶつけるのはご法度。この先も長く一緒にやるんだし、ローテーションがあるんだけど、この先、もしくはこの先の先で上司部下になったりするかもしれないし、部下上司みたいになっちゃうかもしれないから。みんな仲良くしたい。
    • それは日本人の美徳でもあるところが痛いところ。
    • だから、DXとかの前に、「目的議論のトレーニング」を徹底してやるべき。
    • 摩擦を恐れず、私利を捨て、全体のために本気で構成員が議論したならば、日本企業の中からも「そうですよ、もうガソリン車はあと20〜50年くらいで要らなくなるので電気自動車を『本気で』作って本気で売りましょうよ」という話が20年前に日本企業の中から出てきて、今のテスラの台頭はなかったでしょう。

まぁ、ちょっとこれ見てみましょう。
日本企業が、世界からどう見られているかということで、やっぱりなとw

  • だから、例として、よく目的論を下にも、もちろん上にもふっかけてみたりするんだけど、キレられたり、まぁまぁそんなこと言ってもという話になったり、要は「話にならない」っていうことが多いように感じる。
    • なので、個人的には社内ですごく嫌われていると思うw
  • とは言っても、そんなに難しいことかいな?? とも思う。
  • 基本的に要素としては下記、そしてそれらの組み合わせしか無い。
    1. 利益の創出/すぐ【優先度高】
      • 売上の増加➜スタートアップ〇〇の販売
      • コスト削減➜スタートアップ〇〇の利用
    2. 利益を創出/そのうち【優先度中】
      • 競争ポジションの強化
      • 競争力劣後の防止
    3. 利益創出に関係ない【優先度低:いくつかは大切かもしれないけど】
      • コンプライアンス、業法対応
      • 人手不足解消、残業削減
      • 業務効率化、一般論としての
  • ただし、1が簡単に出来れば世話ないし、理論上簡単にできるなら自社の売上高は30兆円を超え、Appleを抜き、時価総額世界1位になれるので、自分以外はみんな馬鹿だと言っているようなものなので、バカも休み休みにして、2に移らなければいけない。
  • 2をやるための方法論が「ディスラプティブなイノベーション」であり、詳細はクレイトン・クリステンセンの「イノベーターのジレンマ」に書いてあるんだから、少なくとも関係者は10回はこの本を読みましょう。
    • 書いてあることで重要なことは「今やっていることの延長線上のことをやっててもダメで、自分でディスラプトするくらいのことに取り組んでいかなきゃいけない」ということ、だと私は解釈しています。
    • だけど、それは、自社の既存ビジネスとカニバリを起こすだとか、そんな分野に知見がないだとか、そんなよく分からないことに人が割けないだとか、そんなのはアメリカのごく一部でやっていることだとか、とりあえず一笑されたりだとか、「そんな商品、今の営業マンじゃ説明できない」だとか、どうしたってITが必要になるけどうちの情シスは手一杯だとか、単価が安すぎて商売にならないとか、作ってもマーケティングのやりようがないでしょうとか、今のチャネルパートナーさんたちが激怒するので口が裂けてもこんな商品発売できないだとか、色々色々難しい話が出てくる。
    • だから、目的を徹底的に議論しないと、克服できない!
  • 2については「利益を創出/そのうち」なので、時間軸の設定は必要。
    • これはもちろん、自社の置かれた市場環境と、自社が持つ競争力、顧客の状況、関係する技術動向、関係する周辺市場(今いる市場だけではない)などなどが関係するので一概には言えない
  • 企業の中で「目的徹底討論ワークショップ」みたいなのを徹底的にやったらいいと思う。
  • それに関するコンサルテーションビジネスも有効でしょう。
  • 摩擦、熱い議論、ケンカ、気まずい沈黙、大いに結構。
    本業に戻ってからのリベンジとかは絶対にナシで、というルールで。
  • 日本人は「建設的に上下を超えて議論する」というのが苦手だと感じる。
  • 飲み屋ではやるんだけど、会社ではやらない。終身雇用的だし。
  • いや、うちの会社だって流石に目的ぐらいパワポに落としてあって、組織内で共有してますよ、何言っちゃってんの、という向きもあるでしょう。
  • だけど、それって、どこかの「なんとか戦略部」とかの若手がちゃちゃっとキーワード的に書いて、適当にマネジメントが「うんうん、それしかないね」とかって言って、結果的に日経新聞やYahooニュースでよく見るキーワードくっつけただけ、みたいになっていないか?
  • 本当に「いや、それはもうみんなやっているから、その先に行かなきゃいけないんでしょう」とか「それが出来たら苦労しないとみんな思っているんだから、当社はその下のインフラを作りましょう/その上のサービスで勝負しましょう、当面儲からないけど、歯を食いしばりましょう」とかそういうその先の話、苦い話を本当に心の底からしているか? 
    そこから生まれた目的か??
  • ただ、「とにもかくにも目的はなんとなくかもしれないけど設定されてはいるんです、それがうまく実行できないんです!」という企業も多くあるでしょう。
  • それは、「目的は階層化する」ということと「その下に手段がある」ということと「目的と手段の重複はある」ということを階層的に体系立って理解していない、ということになります。
  • 例えば 株価を上げる←売上を上げる←XX事業を強化する←YY製品の売上をZZ%増加させる←AA分野に詳しい営業マンを強化する+AA分野の開発に必要なエンジニアをC人増やす←営業事務所を拡張する+研究開発棟を増床する+営業マンの外出時の発生経費の処理システムをリプレースする
  • これは、「クリティカルシンキング」の分野であり、これも重要。
  • 米人や世界各国の人と話していると、「頭のレベル」というのは日本人は特に悪くはない。
  • 但し、日本企業の中の「上と下」という関係と、それを下支えする終身雇用的なシステムがクリティカルシンキングを大いに阻害している。
    • たとえば「上の人がこう言ってるから」
  • そして、頭の中は実際には覗けないんだけど(←この分野のテクノロジー出てくるといいですね!)、日本人は「体系立った論理展開に基づく話法」はかなり苦手。
    これ、ベイスポのインタビュー記事でも書いたけど、米人相手に英語喋るときにクリティカルです。(米人は結構露骨に話が分からなくなると眉を寄せる癖があり、そういう時にはよく分かるものですw あぁ、I’m not making myself clear now.. 的な)
  • 個人的には、会社の中の「仲良しこよし」はもう気にしないし、どうでもいい。
  • 人生の目的を達成する手段として働いているんだから、それに沿ってやっていく、個人レベルではその考え方が重要。
  • ちなみに、Moshさん、何が人生の目的なんですか?と聞かれると、それは稲盛和夫氏の「生き方」という本にすべて書いてある。
    その本を自分の人生の羅針盤として据えています。
  • 転職している人も最近多くなっている気がする。
  • 理由は、表面上は結構似たような内容で聞くんだけど(ジャンプアップのため、スキルアップのため、前から〇〇の分野をやりたくて)、実際には前の会社で「目的が見えなくなっちゃった」っていうのは多いんじゃないかな。
    • だから、目的をみんなで議論できれば、会社に必要な人材はリテインできるし、上記した時間軸において目的に合わなくなってきた人材は会社と人材双方にとって早めに別れた方が結果的にベターなので、悪いことは一つもない
  • CVCに転職している人も、少なくとも自分の周りでは、とても増えている。
    • 理由として、元々やっていたビジネスや所属していた会社のビジネスモデルに限界を感じ、新しくビジネスや産業を興すための投資側にまわりたい、という思考回路があると思う。
    • ただ、親会社があるCVCの場合、必ずこの「目的」に関する議論に戻ってくることになる。
    • これを、親会社⇔CVC間で効率的に、体系立って、ケンカせずに、一方でどっちらけにならないように、建設的に、頻繁に、高速に議論できるかがカギになる

また、人によって我慢強い人と、イラッちな人と、色々いるけれど、実際問題として、「これってなんの目的でやってるんだけっけ?」と聞いた時に、明確な回答が返ってこない場合、猛烈に腹の中で怒っている人もいる、っていうことだけは実務的に分かって欲しいですw

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